職人の技
過去の木造建築をそのまま残し、綺麗に仕上げている職人の技の数々。
建築物の改修前の状況
当該建築物は老朽化が進み、小屋組の損傷が著しく瓦のズレが生じ一部落下していました。
屋根からの漏水の結果、2階床組、1階の床組にも大きな損傷が生じている状態でした。
保存修理工事のポイント
- 外観を江戸時代の建築物に修復、新設増築部分を除却。建設当初および明治期、大正、昭和初期の近代化に向かう時代の変遷の状況を、一部改修の履歴として保存し次代に伝える。座敷上部2階西北側にある子供室の除却し瓦葺切妻屋根の西面を復元。修後 東側立面図にみる、出入口の位置の変更。
サロン(庭蔵)の出窓(ベンチ)部分の撤去。ばったり床几の復元と蔀戸の復元。駒寄の復元。
2階窓の連子格子の復元。
- 外観を江戸時代の建築物に修復、新設増築部分を除却。建設当初および明治期、大正、昭和初期の近代化に向かう時代の変遷の状況を、一部改修の履歴として保存し次代に伝える。座敷上部2階西北側にある子供室の除却し瓦葺切妻屋根の西面を復元。修後 東側立面図にみる、出入口の位置の変更。
- <利活用に必要な施設の整備>建物を一般に公開し管理する上で、最小必要な間取りの変更と、必要な機能の追加を行う。出入口位置の変更に伴う玄関土間の拡張。
奥の間(和室6帖)を事務室に変更。庭蔵を 化粧室や湯沸かし室に改修。座敷の続き間の和室6帖上階にベランダと折返し階段を新設。
- <利活用に必要な施設の整備>建物を一般に公開し管理する上で、最小必要な間取りの変更と、必要な機能の追加を行う。出入口位置の変更に伴う玄関土間の拡張。
- <安全性確保の耐震改修>ⅰ)耐震改修方法の選択
伝統的町家は、柱や梁を金属ボルトで固定したりする現代の木造住宅と違い、土壁や木組みの柔軟性を生かした伝統的な木構造で柱を基礎の石の上に置く「石場建て」が特色。接合においても、柱と梁を枘(ほぞ)と込み栓で継ぎ、土塗り壁は貫と小舞竹を用いることで、地震に対して揺れながら地震の力を吸収する柔構造として解析した。
ⅱ)耐震性を高めるための改修内容
積載荷重の軽減。和風土葺き本瓦を、本葺き桟瓦葺きに変更し、屋根に載る土の荷重を軽減した。
- <安全性確保の耐震改修>ⅰ)耐震改修方法の選択
老朽化した建物の改修
屋根瓦の葺き替え | 小屋組の修理と垂木・野地板の腐朽部分の撤去と新設 |
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下屋瓦の葺き替え | 土葺き本瓦を乾式桟瓦葺きに葺き替え、垂木・野地板の腐朽部分を撤去新設とする |
西側平屋本瓦葺き工事 | 2階子供室を減築した座敷の屋根と1階だいどこ、炊事場の屋根も同じく本瓦の乾式桟瓦葺工法きとする |
ベランダ工事 | 2階子供室除却に伴う、陸屋根工事および FRP防水工事 |
西側妻面軸組修復工事 | 老朽化し朽ちた妻面の軸組修復工事 |
北側外壁貼り | 2階子供室除却に伴い、北側外壁が隣家に接しており、メンテナンスの上から大波ガルバリウム鋼板を貼る |
施工写真
- 越し屋根(煙出し)
- 漆喰壁は煤けて真っ黒に様変わりしていました。煙出しは既に朽ちていたものを改修を機会に作り直しました。
- 軒裏 漆喰塗り籠め
- 火事から家を守るため漆喰で燃えないように軒裏が塗り籠められ火を防いでくれるよう水を模して波打つように仕上げられています。
- 舟板塀
- 工楽松右衛門は北前船など交易船の帆布の発明や、海洋技術者として築港技術や特殊作業船なども開発しました。火事から家を守る意味合いから廃船の船板を用いたと思われます。
- 洗い出し壁
- 昭和5年に改修された2階応接室とベランダ。疑似石積み風のモダンな外壁のデザインは、細やかな種石を配合した当時流行の洗い出し仕上げでした。
- おくどさん
- 昭和5年の改修時に建設当初の土を塗り込んだものから現在の煉瓦積みに改修されています。目地の割れなど、状態がよくないが、目地詰めなどの補修をし形態を保存するに留めました。
- 井戸
- 古図を確認すると建設当初から設けられていたことが伺えます。竜山石を凹凸にみごとに加工され組まれた井戸枠は、当時の石工の高度な熟練した技を今に見ることができます。
- 外壁下見板貼り(庭蔵増築部)
- 江戸から明治期の古図には庭蔵の東側外部に駒寄が描かれていましたが、昭和5年の改修時には駒寄はなくサロンとして増築されていました。今回、サロンの増築部分を撤去し駒寄を復活させました。
- 駒寄・ばったり床几と蔀戸・潜り戸付き格子戸・連子格子
- 京町屋では、ばったり床几とといい、県北部や四国・九州などではブッチョウとも呼ばれています。夜間は床几の脚を跳ね上げ蔀戸と対をなして、戸締まりができるようになっています。
- 継ぎ手仕口
- 古建築の改修は、構造木材の腐朽箇所を取り除き、できる限りオリジナルの部材を、仕口という技法を用い使い続けます。
- 通し柱四方差し
- 工楽家の改修においては、建家中央部にある通し柱の腐朽がひどく、柱の取り替えの必要から、修復において最も困難な、四方差しという工法が用いられました。
- 座敷天井 竹釘差し留め
- 伝統的な木造建築における天井板を貼る場合、現代と比べ天井板の厚みを利用、隙間が開かないように小口に竹の平釘を横打ちし固定しています。
昔の棟梁の技の片鱗が垣間見え一見の価値があります。
- 力天井
- 町屋建築においては現代の住宅と比べて階高が低く、天井板を貼り上げることなく、上階の床板をそのまま階下の天井として設えられました。
- 潜り戸付き吊り仕切り戸
- 通り庭において店の間とプライベートな空間を遮断する潜り戸付き仕切り戸は、下框に戸車が見受けられることから、当初は入り口の大戸として用いられていたことが伺えます。
- 竹小舞
- 古民家の壁の下地は竹を荒縄で組んだ小舞掛けと柱を貫通する貫とで成り立ちます。
それに粗壁を塗り、中塗り、仕上げ塗りを施します。耐震性に関して堅固な強度が得られるのではないが、緩やかに壊れることで倒壊を免れる免震構造となります。
- 持ち送り
- 軒の出が深い庇は軒桁を建屋と平行に前方へ出し、外壁線にある柱に持ち送りを設けて、出桁を支えます。旧工楽家は通りに面した連子格子や、古い写真にあるばったり床几などから当初は商家であり店先の柱を無くすため持ち送りを用いています。
- 耐震リング
- 耐震改修には基礎と柱を堅結し耐震壁を用いて完全に固定する方法と、礎石と柱を固定しない石場建てとして、地震時には横にずれることで倒壊を免れるような工法=免震構造とがあり、耐震リングは地震力を緩衝させる役割を担います。
- 柱根継ぎ
- 伝統的木造建築物は、腐朽した木材を全て取り替えることなく、仕口を工夫し腐朽部のみ切徐、接合部の強度を落とすことなく取り替えます。この柱の根継ぎを金輪継ぎと称します。
- 庭蔵木摺り
- 商家の入り口横には庭蔵が設けてあり、物を頻繁に出し入れすることから、壁は粗壁の中塗り仕上げとし、粗壁の損傷を防ぐ目的で木摺りが壁に、縦方向に半埋め込みされていました。